岡山の舞踊・演劇の感想

岡山のダンス(主にコンテンポラリーダンス)や演劇の感想を書きます。

「二十一時、宝来館」 レビュー

 「ばぶれるりぐる」は2020年劇作家協会新人戯曲賞受賞を受賞した竹田モモコ率いる劇団。その劇団による公演『二十一時、宝来館』が11月29日〜30日の2日間、天神山文化プラザで上演された。正直、ここ最近みた岡山の演劇の中で飛び抜けて面白かった。

 舞台は、廃業が迫る古ホテルの喫煙所。ホテルの宴会場で同窓会がひらかれ、久しぶりに集まった女3人。地元をでて大阪で働く沙英。地元で結婚生活を送るゆかり。そして、地元でクリーニング屋を営むちぐさ。そして、それを見守る禁煙室の灰皿。この灰皿は実際に舞台セットに置かれているのだが、実際に人間が演じている。

 女による見栄の張り合いが話の流れだ。そして、物語が進む事に労働や結婚、さらには同性愛といった様々な要素が織り込まれ複雑に絡まっていく。

 それらが丁寧に描かれている。派遣でありながらも自分の仕事をかっこよく見せようとする沙英、沙英と2人で写真をとる時自分の顔を小さく見せようと沙英を前にしようとするゆかり。どれも共感できるものであり、観客の笑いを誘った。

そのような題材を扱った作品でありがちなドロドロ感はなく、心にスっと入ってくるのは、女性たちが現代人に共感できる弱みを抱えているからだ。大阪という土地で女一人がんばる沙英。結婚して幸せそうに見えるが、夫や姑問題で上手くいっていないゆかり、レズビアンで沙英を密かに想うちぐさ。それぞれの弱みが普遍性を持っていて観客に訴えてくる。だから、どこか憎めない人物たちになっている。

 特に私が心うたれたのは、竹田モモコが演じるちぐさだ。大胆な性格でありながらも沙英を思う気持ちはとても繊細だ。ちぐさは、沙英に何度か一緒に暮らそうと提案する。変といわれても強引に誘おうとする。だが沙英が離れたあと、ため息をついてうずくまる。その姿にぐっときたのだ。

 レズビアンのちぐさにとって一緒に住もうと誘うのは大変勇気のいることだったのだ。沙英が作中で言っているように、同居は世間の目が気になるし、あんた頭おかしいといわれる。急に同居を誘うのは端から見れば異質に見えるのだ。ある意味、強引なことをしないと沙英に近づけないちぐさの不器用さが表出していた。

ちぐさは大胆で女一人で生きてる力強い女性である。そんな彼女が落ち込む要素を見せた時、彼女は勇気を出して共に同居を誘っていたことが伝わってきた。ちぐさにとって一緒に暮らそうというのは、プロポーズのようなものだ。そこに心動かされたのであった。

ぞんな繊細なちぐさを竹田モモコの自然体な演技で見事に表現していた。そして、ちぐさに翻弄される沙英を演じる東千紗都も好演であった。「一緒に暮らそうか」というちぐさの提案に突っつっこむ東の、まさに大阪人のノリの良さのようなテンポよいツッコミは見ていて気持ちがよかった。ゆかりや名脇役ともいえる灰皿を演じるも配役はかなりレベルが高かった。

そして、なにより魅力的な登場人物を描く脚本はさすがだ。雪が降り積もるような繊細な言葉の積み重ねから見えてくる彼女達の虚栄心や弱みが、彼女達の人生の奥行きを感じさせ、立体感ある人物描写に成功している。

 演劇とは、登場人物たちの心の動きを描いたものだ。その意味でこれぞ、演劇といえる出来だった。ばぶれるりぐる、必見である。ぜひまた岡山に来てほしい。ちなみに、今回の『二十一時、宝来館』の台本は戯曲デジタルアーカイブにて無料で公開されている。URLを下に載せている。生にはかなわないが雰囲気を感じ取れると思う。こちらも必読である。

 

『二十一時、宝来館』 戯曲デジタルアーカイブ

https://playtextdigitalarchive.com/drama/detail/243