岡山の舞踊・演劇の感想

岡山のダンス(主にコンテンポラリーダンス)や演劇の感想を書きます。

劇団はぐるま『学演』レビュー

2022年12月17日〜18日、劇団はぐるまの公演「学演」が行われた。平成13年に廃校となった旧岡山市立内山下小学校で「歩み」と「夏芙蓉」の2作品が上演された「夏芙蓉」は日にちによって出演者が一部変わっており、私は17日に鑑賞した。

 

廃校となった学校の教室で学校を舞台にした演劇を上演するというサイトスペシフィックな試みである。会場となるのは旧内山下小学校の理科室。といっても理科室らしい大きな机はなかった。教室の半分に一般的な教室にある学校机と椅子が並べられており、普通の教室の雰囲気だ。教室のもう半分に観客用の椅子が並べられている。

 

本物の教室で行われる「歩み」は忠(武内勇希)と秀(鈴木陽覚)そして、結衣(三谷彩菜)が母校を訪れ恩師のハルちゃん先生(ちえみ)と再会する。久しぶりに再会した秀は結衣のことをひそかに想い続けている。という青春ストーリー。

 

15分ほどの短編のためストーリーの展開はシンプルだ。シンプルすぎて少し物足りない。役者たちの絡みが見たかったというのが本音である。若者ならではの初々しい恋愛模様は見ていて微笑ましかった。

 

「夏芙蓉」は高校演劇ではたびたび上演される名作だ。舞台はとある高校の卒業式の夜。千鶴(濱田優生)は仲のいい舞子(水田菜月)、由利(寺岡久美子)、サエ(岩城梨菜)を呼びだす。集まった女子4人は思い出話に花を咲かせる。しかし、千鶴はなにか言いたいことがあるようで。というストーリー。

 

女子高生4人による思い出話が物語のほとんどを占める。そのリアルな会話には物語の帰結への緻密な伏線が込められている。しかしそれは物語の後半まで物語に大きな動きがないとも言える。つまり、そこまで観客を引き付けるかは役者の演技と演出に掛かっている。

 

おバカで愛嬌のある由利を演じた寺岡久美子はコミカルな表情と演技で観客の笑いを誘った。ボーイッシュなサエを演じた岩城梨奈は2021年に岡山市で行われた徘徊演劇『よみちにひはくれない』で拝見したことがあるが、その時とは違う演技で、演技の幅の広さを感じた。千鶴役の濱田優生と舞子役の水田菜月はふたりの掛け合いが光った。酢昆布のくだりは、漫才を見ているようなスピード感ある掛け合いが面白かった。舞子が千鶴から酢昆布を貰うシーンで舞子が酢昆布を2枚とってしまうアクシデントがあった。アドリブで対応し、うまく笑いへと転換していた。その時の彼女たちは自然体で演じていて、好感をもった。

 

女子4人のたわいもない話で盛り上がってさわぐ姿は学生時代の休み時間に集まって話す女子たちを思い出した。実際の教室で演じられることも相まって、女子たちのしゃべりを観察しているような感覚を覚えた。演出を担当した小林千紘は今回の演劇はリアルの追求を目指したそう。その追求はほぼ成功しているように思う。ただリアルを追求するあまり、単調な部分があったというのも事実である。

 

歩みと夏芙蓉。その共通点は自分の思いを他者へ伝えるところにある。特に若者ならではの自意識や恥ずかしさ、そして、伝えてしまえば関係が壊れてしまうのではないかという恐怖。さまざまなものが混ざりあった感情を乗り越えて自分の思いを伝えるという共通点がある。

 

この演劇を見ていて学生時代、言いたくても言えず後悔したあのときのリアルな感情が蘇ってきた。一歩踏み出せていれば違った結果になったのだろうか。後悔を積み重ねだんだんと伝えたいことを伝えられるようになるのが大人だとしたら、私は成長しているだろうか。自分のことを振り返えらせてくれる公演であった。