岡山の舞踊・演劇の感想

岡山のダンス(主にコンテンポラリーダンス)や演劇の感想を書きます。

第33回 岡山大学ダンス部定期公演『Reボーン!』レビュー

 岡山大学ダンス部定期公演が「リボーン」した。例年ダンス部は5月に劇場での定期公演を実施してきた。第30回公演「湊」(2019)以降はコロナ禍による影響で、大学体育館にてクローズドな公演を行ってきた。今回4年ぶりに劇場公演が実現し、創作ダンスはもちろん、HIPHOPやジャズダンスを含め13作品が披露された。
   公演タイトルは『Reボーン!』である。「前回のホール公演から部員が総入れ替えし、生まれ変わるという意味と溜まったエネルギーを爆発させるという意味」が込められている。作品の内容も抑圧からの解放や再生、そして生命の循環をテーマにしたものが多かった。
 『Unstoppable』は岩倉若菜によるソロ。白いワンピースを着た岩倉が洋楽に乗せ踊る。腕を伸ばし、縮める。ジャンプし、立ち止まるといった解放と収縮の動きを繰り返すことで、躊躇いと覚悟にゆれる情動を可視化する。確かな基礎に裏打ちされながらも、ダンサーが陥ってしまいがちなテクニック至上主義にはならず、表現すべきものを表現しきった。派手さはないが、芯の通った簡素な強さがある。
 ダンス部OBの土屋望が振付した『keikensya』は、黒い衣装を身にまとったダンサーたちの群舞作品だ。舞台が照らされると、数十人のダンサーが一面に横たわっている。そこから、彼らは立ち上がろうとするが、直前で倒れる。という振付が何度も繰り返される。やがてダンサー達に変化が生じる。ある一人は起き上がると走り出し、ある一人は倒立しながら起き上がろうとする。まさに七転八起していくうちに”経験者”になり、少しずつ自由に行動できるようになるのだ。そのようなダンサーたちの身体からは、転んでも立ち上がる強い意志が表出する。
 『森羅~循環する五色の世界~』は、五行思想をモチーフにしている。ダンサー達はそれぞれ緑(木)、赤(火)、黄(土)、白(金)、黒(水)に対応した衣装を身にまとっている。異なる色の衣装を着たダンサーがペアで踊ることで、お互いの色が影響し、循環し合うという五行思想をダンス化する。終盤では、一列になったダンサーたちが左右に分裂し、三列になっていく。その姿はまるで細胞が増殖していくかのようだ。循環する生の世界をダイナミックに描き切った作品である。
 『声のない教室』は、コロナ禍における学校生活をテーマにした作品だ。舞台には5つの黒の箱が距離を保ち、設置されている。箱は教室の椅子になり、それらに座ったダンサーは口を塞ぐ。やがて彼らはもがき、苦しみ始める。コロナ禍によって翻弄される子どもたちの姿を表現しているが、それは部員たちの姿でもある。この作品は3回生の部員が中心となって創作したものだ。3回生とは入学と同時に新型コロナが流行した世代だ。そのような彼らだけに、苦痛がダイレクトに伝わってきた。ため込んだ苦しみを見事に表現へと転換していた。
 新型コロナウイルスが5類感染症へと移行し、世の中は再生しつつある。そのような中で岡山大学ダンス部は復活した。部員たちは卵から生まれたばかりの雛のように、エネルギーに溢れている。彼らはこれからどのような成長を見せるのだろうか。

 

DATA
第33回 岡山大学ダンス部定期公演『Reボーン!』
2023年5月13日(土)/西川アイプラザ 5階多目的ホール
開演13:30~/18:30~

劇団瀬戸内三大珍獣『人狼伝説』レビュー

劇団瀬戸内三大珍獣は、明誠学院高校で教師と演劇部顧問を勤めていた螺子頭斬蔵(ねじあたまきれぞう)が主催する岡山の劇団である。8年ぶりの新作『人狼伝説』は華麗な舞台装置と物語、そして素敵な演劇人によって魅力的な舞台に仕上がった。

 舞台は大正時代のヨコスカにある店・カフェポート。その屋根裏部屋を間借りしている寡男の戌夷(釣田義盛)とその娘の小夜(石井惠)。だが、二人には秘密があった。戌夷は人狼であり、小夜は人狼と人間のハーフだったのだ。カフェポートには、海軍大佐の堀田(紀伊了杜)と海軍大尉の野口(三村真澄)。20年前の奇怪な事件を追う刑事・城島(有賀とういちろう)と、情報屋のマサ(安藤大喜)など、さまざまな客が訪れる。やがて、それぞれの思惑が複雑に絡み合っていく。

 まず特徴的なのは、舞台装置である。下手と上手には、木造で出来た回転する装置がある。カウンターや、ステンドグラスの窓が印象的なカフェの席があり、大正ロマン溢れる煌びやかなカフェの雰囲気を醸し出している。装置が回転するとトタンに覆われた店の裏口や、漆喰の壁が現れるという凝った作りだ。それらは螺子頭の自作で、プロの仕事と遜色がない出来だった。

主演の釣田は、乱暴だがやさしさを持つ戌夷をうまく演じていた。小夜を演じた石井は、冒頭の引っ込み思案な演技がやや作為的な印象を受けたが、堀田の息子・新吾(安田陸人)と恋に落ち、徐々に距離を縮めていく初々しい演技がとても自然であった。カフェポートの女給のお華(おまめ)と、オーナーの志賀(赤木貢)は、コミカルな演技と強烈な存在感で、客席からは笑いが溢れた。

物語終盤では、小夜が人狼の娘とバレてしまい誘拐される。やがて、20十年前の事件と、小夜の母・静子の死の真相が明らかになる。それは、恋愛関係のもつれや、地位欲など、人間の欲が絡み合って起こった悲劇であった。

小夜を助けにきた戌夷は、人狼の力を小夜を助けるために使い、決して犯人を殺そうとはしない。自分の名誉や欲に溺れ、暴力へと走る人間たちとは対照的である。戌夷は人間でもなければ狼でもない。どちらにも属さない存在である。だか、排除され辛い思いをしてきたからこそ、相手を許すという弱さの強さを持っている。

舞台となった大正時代は、第一次世界大戦が始まった時代であった。100年以上が経った現在においても、ロシアのウクライナ侵攻が起こっている。戌夷の生き様は、現代にも射程を広げ、社会に問いかける批評性を内包している。

劇団瀬戸内三大珍獣人狼伝説』/2023年3月11日・12日 岡山県天神山文化プラザホール

脚本・演出:螺子頭 斬蔵

助演出:釣田 義盛

出演:釣田義盛、石井惠、小林徳子、赤木貢、渡邊紀子、おまめ、栂崎朝香、前田紅理、赤澤尋樹、三村拓翔、福田真大、釣田晴城、ローリー井上、安田陸人、有賀とういちろう、安藤大喜、三村真澄、紀伊

 

 

日本昔ばなしのダンス『つるのおんがえし』『ねずみのすもう』レビュー

むかしむかし、あるところにむかしばなしをダンスにしようとした近藤良平と、山口夏江というふたりの振付家がいました。山口夏江は『つるのおんがえし』を、近藤良平は『ねずみのすもう』と『かきのきじろべぇ』をおもしろいダンスで、おとなもこどももたのしめる作品をつくり出しました。だからでしょうか。会場はたくさんの親子連れで、にぎわいました。

山口夏江は、稲村はるに「鶴」役を与え、宮内愛に「若者」を演じるようにいいました。そして、自分は「若者の母」になりきることにしました。若者と母親のコミカルな言葉の掛け合いに、みんなは大笑い。山口は『つるのおんがえし』を面白おかしい物語へと変えてしまったのです。ですが、物語の最後はみんながよく知っているものとは、すこし違っていました。

機を織っているところを見られてしまった鶴は帰らなければなりません。鶴が飛び去ろうとしたとき、若者は鶴とともに空へ舞い上がります。母親は手をふって二人を見送っていました。それまで、人間だった若者の背中に羽が生えたのです。若者は一瞬にして鶴になりました。

次に、サプライズで「かきのきじろべぇ」が披露されました。舞台の真ん中の椅子に座った近藤良平は、スケッチブックのように加工したダンボールを被ります。ダンボールをめくるとびっくり。ものがたりの主人公である「じろべぇ」おじさんの頭が現れます。顔の部分がくりぬかれていて、そこからダンサーは顔を覗かせています。

ページをめくるごとに「じろべぇ」さんの頭から柿の木や、どじょうが生えてきます。めくるめく変わっていく近藤さんの姿が、おかしくておかしくて子どもたちは笑いがとまりませんでした。

そして、最後の演目「ねずみのすもう」がはじまります。けれども、すぐにねずみたちは現れません。かわりに舞台に現れたのは、鎌倉道彦・藤田善宏・山本光二郎という愉快な3人のおじさんたちでした。彼らは身体をいっぱい使って、いろいろなものに変身します。3人は最初に田植えをしている農家の人たちになりきります。一人が手を水平に広げ、かかしになったかと思うと、そこから流れるように、虫やカラス、挙句の果てにはトイレへと姿を変えていきます。おとなもこどもも大よろこびです。

 楽しい七変化が終わると、彼らは並んで足を大きく広げたまま、足を空に向けて寝転んでしまいました。すると、ダンサーの手から小さなおじいさんの人形が現れます。おじいさんは、足でできた山をえっちらおっちら登っていきます。いよいよ、たのしいたのしい「ねずみのすもう」がはじまるのです。

 こうして、彼らは子ども達とたくさん遊びました。実はここで踊っていた人たちは、化けるのがとっても上手なたぬきさんだったのです。いろいろなものに化けて、こどもたちと遊んでくれたのでした。家に帰ったこどもたちは、たぬきさんたちの真似をして遊んだことでしょう。

 やがて、たぬきたちと遊んだこどもたちはすくすく成長し、想像力にあふれた立派な大人に成長しましたとさ。おしまい。

 

2023年2月19日/西川アイプラザ5階多目的ホール

日本昔ばなしのダンス

「つるのおんがえし」

構成・振付・演出 山口夏絵

出演 稲村はる 宮内愛 山口夏絵

 

「ねずみのすもう」

構成・振付・演出 近藤良平

出演 鎌倉道彦 藤田善宏 山本光二郎

「5th IPU Dance Performance in Okayama 2022 」レビュー

2022年12月26日(月)に岡山市民会館大ホールにて「5th IPU Dance Performance in Okayama 2022 -第5回 IPU・環太平洋大学ダンス部主催発表会-」が行われた。環太平洋大学ダンス部主催の発表会で、環太平洋大学チアリーディング部やダンス部の学生が指導するキッズチアダンサーをはじめ180人以上の出演者により22作品が上演された。

キッズチアダンサーのかわいらしい演技や中学生とは思えない高いテクニックが観客を魅了した。チアリーディング部の演技も迫力満点で会場は歓喜に包まれた。

環太平洋大学ダンス部といえば高いテクニックと優れたコンビネーションをもつダンス部であり、それを存分に堪能できた発表会であった。

『跳進~The throb for tommrrow`s life~』はダンス部が新たな段階に進んだことを感じさせた。この作品は大人数の群舞であるが、今までの作品とすこし毛色が違う。

環太平洋大学ダンス部の大人数の創作ダンスといえば、岡山出身の画家竹下夢二をテーマにした『おもいびと ー夢二、その抒情ー』といった具体的な人物をモチーフにした作品が多い。

ところが、この作品は具体的な人物を表現しているわけでない。衣装も緑や黄色といったカラフルな色使いで幾何学的な図形がプリントされた抽象度の高い衣装であった。

所々に挿入されるストイックな動きはダンスの意味や感情を一切排して、身体動作の面白さを追求するポストモダンダンスの影響を感じる。

もちろん、それまで培ってきた抒情的な動きもあった。彼女達はそれまで行なってきた抒情的な動きとポストモダンダンス的な動きを融合し新たな身体表現を模索していた。

私はその試みを評価したい。抽象度を上げることによって環太平洋大学ダンス部のテクニックとコンビネーションをストレートに感じる作品となっていた。

劇団はぐるま『学演』レビュー

2022年12月17日〜18日、劇団はぐるまの公演「学演」が行われた。平成13年に廃校となった旧岡山市立内山下小学校で「歩み」と「夏芙蓉」の2作品が上演された「夏芙蓉」は日にちによって出演者が一部変わっており、私は17日に鑑賞した。

 

廃校となった学校の教室で学校を舞台にした演劇を上演するというサイトスペシフィックな試みである。会場となるのは旧内山下小学校の理科室。といっても理科室らしい大きな机はなかった。教室の半分に一般的な教室にある学校机と椅子が並べられており、普通の教室の雰囲気だ。教室のもう半分に観客用の椅子が並べられている。

 

本物の教室で行われる「歩み」は忠(武内勇希)と秀(鈴木陽覚)そして、結衣(三谷彩菜)が母校を訪れ恩師のハルちゃん先生(ちえみ)と再会する。久しぶりに再会した秀は結衣のことをひそかに想い続けている。という青春ストーリー。

 

15分ほどの短編のためストーリーの展開はシンプルだ。シンプルすぎて少し物足りない。役者たちの絡みが見たかったというのが本音である。若者ならではの初々しい恋愛模様は見ていて微笑ましかった。

 

「夏芙蓉」は高校演劇ではたびたび上演される名作だ。舞台はとある高校の卒業式の夜。千鶴(濱田優生)は仲のいい舞子(水田菜月)、由利(寺岡久美子)、サエ(岩城梨菜)を呼びだす。集まった女子4人は思い出話に花を咲かせる。しかし、千鶴はなにか言いたいことがあるようで。というストーリー。

 

女子高生4人による思い出話が物語のほとんどを占める。そのリアルな会話には物語の帰結への緻密な伏線が込められている。しかしそれは物語の後半まで物語に大きな動きがないとも言える。つまり、そこまで観客を引き付けるかは役者の演技と演出に掛かっている。

 

おバカで愛嬌のある由利を演じた寺岡久美子はコミカルな表情と演技で観客の笑いを誘った。ボーイッシュなサエを演じた岩城梨奈は2021年に岡山市で行われた徘徊演劇『よみちにひはくれない』で拝見したことがあるが、その時とは違う演技で、演技の幅の広さを感じた。千鶴役の濱田優生と舞子役の水田菜月はふたりの掛け合いが光った。酢昆布のくだりは、漫才を見ているようなスピード感ある掛け合いが面白かった。舞子が千鶴から酢昆布を貰うシーンで舞子が酢昆布を2枚とってしまうアクシデントがあった。アドリブで対応し、うまく笑いへと転換していた。その時の彼女たちは自然体で演じていて、好感をもった。

 

女子4人のたわいもない話で盛り上がってさわぐ姿は学生時代の休み時間に集まって話す女子たちを思い出した。実際の教室で演じられることも相まって、女子たちのしゃべりを観察しているような感覚を覚えた。演出を担当した小林千紘は今回の演劇はリアルの追求を目指したそう。その追求はほぼ成功しているように思う。ただリアルを追求するあまり、単調な部分があったというのも事実である。

 

歩みと夏芙蓉。その共通点は自分の思いを他者へ伝えるところにある。特に若者ならではの自意識や恥ずかしさ、そして、伝えてしまえば関係が壊れてしまうのではないかという恐怖。さまざまなものが混ざりあった感情を乗り越えて自分の思いを伝えるという共通点がある。

 

この演劇を見ていて学生時代、言いたくても言えず後悔したあのときのリアルな感情が蘇ってきた。一歩踏み出せていれば違った結果になったのだろうか。後悔を積み重ねだんだんと伝えたいことを伝えられるようになるのが大人だとしたら、私は成長しているだろうか。自分のことを振り返えらせてくれる公演であった。

『まつろわぬ民2022~更地のうた~』レビュー

 『まつろわぬ民2022〜更地のうた〜』が2022年12月14日、天神山文化プラザホールで上演された。平成狸合戦ぽんぽこの主題歌『いつでも誰かが』で知られる白崎映美の主演の舞台。朗読劇と白崎映美のライブの2部構成で行われ、演奏家ファンテイルによるギターの生演奏が舞台を彩る。
   舞台は2022年福島。老人介護ホームから行方をくらました老婆スエ(白崎映美)を追って福島にやってきた介護職員のかおり(吉田佳世)。そこで元牛飼いの安島(佐藤正宏)とスエの家を解体する建築業者の山路(堀井政宏)と出会い、交流していく姿を描いた。
 舞台セットは出演者が座るイス4つと、演奏するギターが並べられているだけのシンプルなものだ。ファンテイルの繊細でやさしいギターの音色で舞台の幕があけると演者がかくれんばの「もういいかい」「まあだだよ」の掛け声と共に登場し、観客を2022年の福島へといざなう。
 まず初めに胸に残ったのは、劇の中で描かれている被災地の今の姿だ。被災地は今一面の更地にぽつんと数軒のアパートが建っている。かおりのセリフを借りれば「SF映画みたいでシュール」な光景だ。また、家が取り壊され更地が増える光景に対して「まるで後から来た津波だな」という安島の台詞は、実際に震災を経験したものでないと出てこない生々しい言葉だった。メディアにはなかなか出てこない被災地のリアルを見事に描いていた。
   物語ではいまだ傷が癒えない被災者の姿にもスポットが当たる。安島は震災によって可愛がっていた牛を見捨てたことをずっと後悔している。山路も妻を津波で失っており、妻の遺品である壊れた携帯を持ち歩いている。終盤、その携帯に電話が掛かってきて山路は妻からの電話なのではないかと思うシーンがある。このような霊的現象は、実際に東日本大震災後に起こったらしい。ノンフィクション作家・奥野修司の『魂でもいいから、そばにいて 3・11後の霊体験を聞く』という本は3・11で近親者を亡くした被災者が体験した霊体験がまとめられている。震災で亡くなった義兄から電話がかかってきたという類似した話も収められていた。なぜこのような現象が起こるかわからないが、いなくなってしまった人の忘れたくないという気持ちが霊的現象を引き起こすのかもしれない。
 そして、物語は現代にとどまらず古代にさかのぼる。劇のタイトルにある「まつろわぬ民」とは、古代大和朝廷の支配に反発した東北の民の蔑称である。物語中盤ではスエより大和政権に迫害された鬼の話が語られる。鬼はまつろわぬ民のメタファーだ。権力者によって悪者にされ、最後には忘れ去られる。歴史の中で迫害されてきた人々と被災者たちが置かれている状況が重なり合っていく。
 さまざまな角度から震災を描く中で浮かび上がってくるメッセージは、いなくなってしまったもの達を忘れないでほしいという願いだ。物語の最後、かくれんぼの掛け合いをする。。特に最後にはスエが「まあだだよ」と言い続けるその姿には心打たれた。「まあだだよ」と言い続ける限り「もういいかい」と言葉が返ってくる。だからこそ、それを言い続けるのだ。そこに3・11の被害者だけではなく過去に迫害されて消えてしまったもの達、すべてを忘れないという意志を感じた。愛する人を忘れず、亡くなった後も忘れないことはつらいことだ。亡くなったという事実と向き合い続けなくてはいけないからだ。しかし、それを受け入れて忘れないと誓うスエの心意気に観客席からはすすり泣く声が聞こえた。
 それから、ファンテイルのやさしいギターと白崎映美の伸びやかな歌声にのせて、劇のために書き下ろされた「更地のうた」が歌われ幕を閉じた。2部のコンサートでもアンコールで歌われた「更地のうた」は亡くなった人へ思いを込めた鎮魂歌であると同時に、過去を忘れずに生きる人たちへの讃美歌でもあった。

公演情報「 日本昔ばなしのダンス 」

日時:2月19日(日)11:00~ 15:00~

場所:西川アイプラザ5階

年齢:3歳以上

料金:一般2500円、3歳~高校生1000円

販売:12月9日(金)岡山シンフォニーホールチケットセンターやイープラスで販売

公式サイト:日本昔ばなしのダンス | 岡山芸術創造劇場ハレノワ

 

 学ランダンスで知られるダンスカンパニー「コンドルズ」を率いる近藤良平。そして「マグナム☆マダム」を率いるダンサー・振付家の山口夏絵。二人が日本の昔話をモチーフにしたコンテンポラリーダンスを岡山で上演することが決まった。

 コンドルズは男性のみで結成されたダンスカンパニー。そして、マグナム☆マダムは女性のみで結成されたダンスカンパニー。

 

コンドルズ

www.youtube.com

マグナム☆マダム

www.youtube.com

 この二つのカンパニーはどこか似ている。それは作品にも表れている。コンドルズは学ラン姿で踊る。そして、マグナム☆マダムも白のタンクトップにジャージというユニフォームで踊る。ふたつともどこかコミカルで楽しく元気をもらえる作風が特徴だ。

 コミカルさとは、ありえないさや現実とのギャップから生み出されるものだと思っている。コンドルズのおじさんたちが学ランをきて踊りまくるシュールさ。マダム☆マグナムの白のタンクトップ、ジャージ姿のおばさまたちで肉を震わせ踊り狂う姿。どちらも現実にはお目にかかれなさという意味では共通しているのだ。 

 そんなどこか似たダンスカンパニー・主宰のふたりはどんな昔ばなしのダンスを展開するのだろうか。さすがに学ランとジャージ姿はでてこないだろうが、彼らのあふれ出る個性がどのような形で昔話と融合して表現されているのか。今から楽しみだ。