岡山の舞踊・演劇の感想

岡山のダンス(主にコンテンポラリーダンス)や演劇の感想を書きます。

劇団瀬戸内三大珍獣『人狼伝説』レビュー

劇団瀬戸内三大珍獣は、明誠学院高校で教師と演劇部顧問を勤めていた螺子頭斬蔵(ねじあたまきれぞう)が主催する岡山の劇団である。8年ぶりの新作『人狼伝説』は華麗な舞台装置と物語、そして素敵な演劇人によって魅力的な舞台に仕上がった。

 舞台は大正時代のヨコスカにある店・カフェポート。その屋根裏部屋を間借りしている寡男の戌夷(釣田義盛)とその娘の小夜(石井惠)。だが、二人には秘密があった。戌夷は人狼であり、小夜は人狼と人間のハーフだったのだ。カフェポートには、海軍大佐の堀田(紀伊了杜)と海軍大尉の野口(三村真澄)。20年前の奇怪な事件を追う刑事・城島(有賀とういちろう)と、情報屋のマサ(安藤大喜)など、さまざまな客が訪れる。やがて、それぞれの思惑が複雑に絡み合っていく。

 まず特徴的なのは、舞台装置である。下手と上手には、木造で出来た回転する装置がある。カウンターや、ステンドグラスの窓が印象的なカフェの席があり、大正ロマン溢れる煌びやかなカフェの雰囲気を醸し出している。装置が回転するとトタンに覆われた店の裏口や、漆喰の壁が現れるという凝った作りだ。それらは螺子頭の自作で、プロの仕事と遜色がない出来だった。

主演の釣田は、乱暴だがやさしさを持つ戌夷をうまく演じていた。小夜を演じた石井は、冒頭の引っ込み思案な演技がやや作為的な印象を受けたが、堀田の息子・新吾(安田陸人)と恋に落ち、徐々に距離を縮めていく初々しい演技がとても自然であった。カフェポートの女給のお華(おまめ)と、オーナーの志賀(赤木貢)は、コミカルな演技と強烈な存在感で、客席からは笑いが溢れた。

物語終盤では、小夜が人狼の娘とバレてしまい誘拐される。やがて、20十年前の事件と、小夜の母・静子の死の真相が明らかになる。それは、恋愛関係のもつれや、地位欲など、人間の欲が絡み合って起こった悲劇であった。

小夜を助けにきた戌夷は、人狼の力を小夜を助けるために使い、決して犯人を殺そうとはしない。自分の名誉や欲に溺れ、暴力へと走る人間たちとは対照的である。戌夷は人間でもなければ狼でもない。どちらにも属さない存在である。だか、排除され辛い思いをしてきたからこそ、相手を許すという弱さの強さを持っている。

舞台となった大正時代は、第一次世界大戦が始まった時代であった。100年以上が経った現在においても、ロシアのウクライナ侵攻が起こっている。戌夷の生き様は、現代にも射程を広げ、社会に問いかける批評性を内包している。

劇団瀬戸内三大珍獣人狼伝説』/2023年3月11日・12日 岡山県天神山文化プラザホール

脚本・演出:螺子頭 斬蔵

助演出:釣田 義盛

出演:釣田義盛、石井惠、小林徳子、赤木貢、渡邊紀子、おまめ、栂崎朝香、前田紅理、赤澤尋樹、三村拓翔、福田真大、釣田晴城、ローリー井上、安田陸人、有賀とういちろう、安藤大喜、三村真澄、紀伊